コラム
専業主婦は休業損害を受け取れるのか?弁護士が解説!
2025.05.07 弁護士相談の基礎知識交通事故で家事ができなくなった専業主婦も、休業損害を請求できる可能性があります。
家事は経済的価値が認められており、補償対象となるためです。
本記事では、請求の根拠や計算方法、必要書類のそろえ方、弁護士に依頼するメリットまでを詳しく解説します。
専業主婦は休業損害を受け取れるのか?弁護士が解説!
交通事故の被害者になり、ケガや後遺症の症状で家事ができない状態になったとき、「専業主婦には収入がないから補償されないのでは」と不安になる方は多いです。
しかし、家事にも経済的価値があると認められており、休業損害として補償を受けられる可能性があります。
本記事では、休業損害の基本的な仕組みから、専業主婦が対象となる理由、請求に必要な書類や計算方法などを丁寧に解説します。
今後の手続きがスムーズになり、適正な賠償額の目安もわかるでしょう。
休業損害とは
休業損害は、交通事故で負傷して仕事を休み、収入が減った場合に発生する損害のことです。
慰謝料とは別に考える損害です。
たとえば入院していた期間や、治療のために出勤できなかった日があると、働いていない時間に応じて収入が減ります。
会社員なら給与、自営業者であれば営業利益などが対象になります。
治療費とは異なり「得られたはずの利益」に対する補償です。
申請は診断書や通院記録などの証拠を集めながら、書類が整い次第、相手方の保険会社に提出すします。
専業主婦も休業損害を受け取れる
休業損害は働いている人に向けた損害賠償のイメージもあるかもしれません。
しかし、専業主婦は家事従事者と認められ、交通事故のケガで家事ができなくなったら休業損害を請求できます。
家事労働にも経済的な価値があると法律で認められているためです。
主婦の場合は無収入でも請求が可能なので、手続きをあきらめる必要はありません。
家事従事者について、および認められるためのポイントも含めてもう少し詳しく説明します。
家事従事者とは
家事従事者とは、日常生活のなかで家庭内の作業を担っている人です。
たとえば、食事の準備や洗濯、掃除など家族の生活を支えている人が該当します。
年齢や性別に関係なく家事を主にしていれば家事従事者です。
交通事故によってこれらの作業ができなくなると、経済的価値のある労働として休業損害の対象になります。
労働と同様に評価される点が特徴といえるでしょう。
家事従事者を証明する方法
家族構成表や住民票は主な証拠資料です。
家族構成表には同居する家族の名前や年齢、職業を記入し、家庭内での役割を明らかにします。
住民票も世帯全員の情報が載っているものを提出することで、家事を担っていた立場が裏付けられます。
家事従事者が休業損害を受け取るには
家事従事者が休業損害を受け取るためには、事故が家事にどれほど影響したか具体的に示す必要があります。
家事は目に見える収入ではないため、保険会社に実態が伝わりにくいです。
たとえば、何をどの程度の期間できなかったのかを日記に記録しておくと、交渉時に説明しやすくなります。
洗濯や食事の支度など、日常の作業内容を細かく記すことは、損害の正当性を裏付けることになり、適正額の休業損害請求につながります。
休業損害の計算方法
休業損害の計算方法には3つの基準のいずれかをもとにして算出されます。
具体的な基準は下記です。
- ・自賠責基準
- ・任意保険会社基準
- ・弁護士(裁判)基準
それぞれについて解説します。
自賠責基準
自賠責基準では、自賠責保険を利用するもので、休業損害を日額6,100円と固定して計算します。
たとえば10日間の入通院があった場合、6,100円 × 10日 = 61,000円となり6万1000円が休業損害額です。。
実際の収入がなくても、家事労働は経済的価値が認められているため、専業主婦でもこの金額が適用されます。
家事のできない期間が明確であれば、一定の損害として認定されることが多いです。
任意保険会社基準
任意保険会社は自賠責よりも柔軟な対応をしますが、支払い金額は自賠責と同程度です。
家事の支障や通院頻度などを基準に、保険会社独自の判断で日額や対象期間を決めるため、納得できないケースもあるでしょう。
提示額が低いと感じた際は、弁護士(裁判)基準と比較することが重要です。
弁護士(裁判)基準
弁護士(裁判)基準は、家事労働の経済的価値を実収入に近づけて計算します。
具体的な計算式は「賃金センサスの女性全年齢平均 × 休業期間」です。
賃金センサスは、正式には「賃金構造基本統計調査」といい、厚生労働省が毎年実施している日本の代表的な賃金調査のことです。
企業に勤める労働者の賃金や労働時間、学歴や年齢、職種などのデータを収集・分析し、性別や年齢別に平均年収や日額を把握する基準として使われています。
収入がない専業主婦などに対しては、この賃金センサスの「女性・全年齢平均賃金」が使われます。
令和6年の女性全年齢平均は4,194,400円で、1日あたりに換算すると、約11,492円です。
このように弁護士(裁判)基準では、自賠責基準の2倍に近い額で請求額を算出することが可能です。
保険会社の提示よりも増額が期待できるため、示談前には確認しておきましょう。
休業損害に関するよくある質問
休業損害を算出する際の基準について解説してきましたが、休業損害については次のような質問がよくあがります。
- ・休業日数はいつからいつまで?
- ・主婦でもパート等の掛け持ちをしている場合は?
- ・一人暮らしの家事従事者に休業損害は認められるのか?
- ・家事代行等の費用を含むことは可能?
- ・家事が分業されていた場合はどうなるか?
それぞれに回答していきます。
質問①休業日数はいつからいつまで?
休業日数は、家事が実際にできなかった期間を基準に計算されます。
たとえば治療のために通院が必要だった日や、医師から安静を指示された期間が該当します。
自賠責基準では、自己判断によってケガの痛みから自宅で安静にしていた期間は休業期間として認められないことが多いです。
一方で弁護士(裁判)基準では、ケガの状況から家事が難しかったことを証明できれば
、自宅療養の期間も対象になることがあります。
ただし、弁護士(裁判)基準での休業日数は、家事がまったくできなかった日を基準に判断されます。
入院していた期間は、日常生活に支障が出ていると明らかなので、100%の休業とみなされやすいです。
一方で自宅療養の場合は状況に応じて判断され、事故後1か月は100%、2〜3か月目は50%、4か月以降は20%といった割合で計算される例もあります。
実際に何をどれだけできなかったかを示すために、診断書や家事の記録を残しておくことが重要です。
質問②主婦でもパート等の掛け持ちをしている場合は?
パートをしている場合、休業損害は就労と家事の両面からの評価が必要です。
まず、パートの収入がある方は、勤務先に休業損害証明書を作成してもらい、源泉徴収票などとあわせて提出します。
損害額の算定では「実際のパート収入」か「主婦としての基準収入(賃金センサス)」のうち、高い方が使われます。
1日あたりの金額が高い方を基礎にできるので、収入が少ないパート勤務でも不利にならない仕組みです。
質問③一人暮らしの家事従事者に休業損害は認められるのか?
あまりないケースですが、一人暮らしの家事従事者では休業損害が認められないこともあります。
休業損害が認められるのは「家族のために家事を行っている人」であって、一人暮らしの場合は「自分のために家事を行っている人」という考え方になります。
そのため、一人暮らしかつ無収入の状況で休業損害は認められにくいでしょう。
ただし、シングルマザーなど子どものために家事を行っている場合、休業損害が認められる家事従事者という考え方になります。
質問④家事代行等の費用を含むことは可能?
交通事故のケガが原因で家事ができなくなり、家事代行やベビーシッターを利用した場合は、その費用を休業損害として請求できる可能性があります。
実際にかかった費用が必要性・妥当性のあるものと判断されれば、保険会社に認められるからです。
知人などに頼んで謝礼を支払ったケースも、金額によっては請求対象になることがあります。
ただし家事代行費と主婦の休業損害の両方を同時に求めることはできません。
質問⑤家事が分業されていた場合はどうなるか?
家族で家事を分担していたケースでは、休業損害の金額は分担の割合に応じて調整されることがあります。
たとえば、夫婦で家事を半分ずつ行っていたなら、主婦がケガのために家事をできなくなった際の影響も半分と判断される可能性があります。
家族全員が協力して家事をしている2世帯住宅などでも同様です。
提出する資料に家族構成や日常の家事分担がわかる情報を記載しておくと、正確な判断につながります。
主婦が休業損害を請求する手順
主婦の方が交通事故によるケガで休業損害を請求する際は次の2ステップの手順に沿っていきます。
- 1. 書類準備
- 2. 保険会社へ提出
STEP1:書類準備
休業損害を請求するためには、家事を日常的に行っていたことや、ケガの影響で家事ができなかった事実を示す書類が必要です。
状況に応じて準備する書類は異なるため、以下の表にまとめています。
区分 | 必要書類一覧 |
---|---|
専業主婦 | 診断書/家族構成表/住民票 |
専業主夫 | 診断書/家族構成表/住民票/非課税証明書/配偶者の所得証明 |
兼業主婦 | 診断書/住民票/家族構成表/休業損害証明書/源泉徴収票 |
診断書には治療期間や日常生活への支障が記載されているかを確認しましょう。
STEP2:保険会社へ提出
書類の準備が整ったら、相手方の保険会社に提出します。
保険会社は書類をもとに損害額を検討するため、不備や不足があると手続きは長引くことがあります。
家事従事の事実を説明する書類は丁寧に記載し、必要があれば弁護士などに相談してから送付すると安心です。
休業損害の請求を弁護士へ依頼するメリット
休業損害の請求には、弁護士へ相談することで最終的に受け取れる金額が高くなったり、精神的な負担が軽くなったりする可能性が大いにあります。
弁護士に依頼する主なメリットは次の3点です。
保険会社との交渉を任せられる
交通事故の相手方保険会社とのやり取りは精神的な負担も大きくなりがちです。
交渉に慣れていないと、不利な条件で示談してしまうこともあります。
弁護士に依頼すれば、交渉を一任できるため、ストレスを減らしつつ適正な補償を目指せます。
専門的な知識をもとに対応してくれるので安心です。
弁護士(裁判)基準で請求ができる
賠償金の計算には複数の基準があることを解説しましたが、弁護士は最も高額になる弁護士(裁判)基準を使って請求します。
上述したように、弁護士(裁判)は自賠責基準や任意保険会社基準よりも増額が期待できます。
弁護士に依頼する費用を差し引いたとしても、結果的に受け取れる金額は多くなるケースがほとんどでしょう。
そもそも、弁護士(裁判)基準は裁判所が用いているため、損害に対する適正な基準でもあります。
自賠責基準や任意保険会社基準は、受けた損害の適正額とはいえず損をしていることになります。
必要書類の整理や収集をしてもらえる
請求手続きではさまざまな書類が必要なことを上述しましたが、内容の確認や集め方がわからず困る人もいます。
交通事故で心身ともにダメージを負っているなか、損害賠償請求のために調べながら必要書類を収集するのはかなりの負担です。
弁護士に依頼すれば、診断書や住民票、家族構成表といった準備をサポートしてくれます。
漏れのない状態で提出できるため、安心してスムーズに請求までもっていけます。
【まとめ】主婦に休業損害は関係ない!は誤解
交通事故にあい、家事ができなくなっても専業主婦には「家事従事者」として休業損害の対象になります。
この記事のポイントは下記のとおりです。
- ・専業主婦でも休業損害の請求は可能
- ・家事は経済的価値が認められている
- ・日記や証拠書類で家事負担を証明できる
- ・請求額は計算基準により大きく変動する
- ・弁護士に依頼すると増額が見込める
手続きを進める際は、まず自身が家事従事者である証明を整えましょう。
迷ったら専門家の弁護士に相談することも大切です。
「知らなかった」では損をするかもしれません。
大切な権利を守るため、今できることからはじめてみてください。
初回相談は無料の弁護士法人や法律事務所も多いですよ。