コラム
交通事故の示談交渉を自分で保険会社と行う際に注意すべきことは? 弁護士に相談すべき理由も解説
2025.08.24 示談交通事故の示談交渉は保険会社の示談交渉サービスにより行うのが一般的ですが、被害者に一切の責任がないケースでは、被害者は自分で加害者の保険会社と示談交渉しなければなりません。自分で慰謝料等の示談交渉する際の流れや注意すること、低額な示談金の金額を示された場合の対処方法、弁護士に相談すべき理由などを解説します。
交通事故の示談交渉の相手が保険会社である場合の交渉のポイントや注意点を解説
交通事故の示談交渉を行う時は、自動車保険の任意保険会社が提供する示談交渉サービスを利用することが多いですが、被害者に一切責任がないケースだと示談交渉サービスが使えないので被害者の方は、自分で交渉するしかありません。
保険会社との間で示談交渉を行う際に示談金の額に関して注意したいことや交渉時の注意点について解説します。
交通事故における示談交渉とは?
交通事故の被害者になった場合は、加害者の任意保険会社に対して、治療費、休業損害、慰謝料(入通院慰謝料)を請求することができます。
しかし、被害者が一方的に主張する額を加害者や保険会社がホイホイと支払ってくれるわけではなく、加害者や保険会社と交渉しなければ、まとまった金額を受け取ることができません。
被害者が加害者から慰謝料等を受け取るための交渉が示談交渉になります。
なぜ保険会社が交通事故の示談交渉を代行できるのか?
自動車保険の任意保険会社では、交通事故の当事者に代わって示談交渉を行う「示談交渉サービス」を提供しているのが一般的です。
そのため、加害者が任意保険に入っていれば、被害者が示談交渉する相手は、任意保険会社の担当者になります。
また、被害者も自動車の運転者などで任意保険に加入していれば、自分の任意保険会社が提供する示談交渉サービスを使えることがあります。
この場合、任意保険会社同士の示談交渉になるため、被害者の方が直接、示談交渉に係る必要はなくなります。
交通事故の際、保険会社の示談交渉サービスを利用できないケースとは?
交通事故の際、任意保険会社が提供する示談交渉サービスを使えないこともあります。
そもそも、示談交渉は、法律事務に当たるため、弁護士や弁護士法人以外の人が報酬を得る目的で行うと非弁行為に当たります(弁護士法72条)。
任意保険会社は、弁護士法人ではありませんし、示談交渉の担当者も弁護士ではありません。
弁護士や弁護士法人以外の人が示談交渉を行ってよいのは次の場合だけです。
- ・事件の当事者が行う場合。
- ・無報酬で示談交渉をする場合。
- ・被害者自身(もしくはその家族など)が交渉する。
- ・弁護士に依頼して代わりに示談交渉してもらう。
- ・示談金の範囲
- ・示談金の金額
- ・過失割合
- ・その他の示談条件
- ・後遺障害慰謝料:後遺障害が残ったことによる精神的な苦痛、肉体的な苦痛に対する補償を求めるものです。
- ・後遺障害逸失利益:後遺障害により労働が制約されたことで得られたはずの収入が得られなくなったことについて補償を求めるものです。
- ・将来介護費:介護が必要な状態になった場合は、将来掛かる介護費用について請求することができます。
- ・死亡慰謝料:被害者本人の精神的苦痛や遺族の方の精神的苦痛に対する補償を求めるものです。
- ・死亡逸失利益:被害者が亡くなったことにより、得られなくなった将来の収入について補償を求めるものです。
- ・葬祭費:被害者の葬儀などに掛かった費用について補償を求めるものです。
- ・自賠責基準
- ・任意保険基準
- ・弁護士基準(裁判基準)
加害者や被害者といった当事者が自分で示談交渉を行うことは、特に禁止されていません。
また、弁護士法72条が禁止しているのは、報酬目的で法律事務を行うことですから、無報酬ならば、問題ないということになります。
そして、任意保険会社が事故を起こした本人たちに代わって示談交渉を行うサービスを提供できるのは、交通事故の『当事者』だからです。
なぜなら、示談交渉がまとまれば、任意保険会社は加害者に代わって示談金を支払わなければならないからです。
そのため、少しでも支払額を減額できるように、自ら示談交渉してよいという理屈なのです。
逆に言えば、示談金を任意保険会社が支払う必要がないケースでは、任意保険会社は示談交渉を行うことができません。
具体的には、被害者に一切、責任がない場合です。
この場合、被害者の任意保険会社は示談金を支払う必要がないため、『当事者』の立場になりません。そのため、被害者に示談交渉サービスを提供できないわけです。
被害者が示談交渉サービスを利用できない場合の対処法は?
被害者に一切、責任がないケースのように、被害者自身が加入している保険会社の示談交渉サービスを利用できないケースでは、次の2つの方法のいずれかによるしかありません。
保険会社と示談交渉する際に話し合うこと
保険会社との示談交渉を自分で行う場合は、次の項目について話し合うことになります。
一つ一つ確認しましょう。
示談金の範囲
示談金の対象となる項目について交渉します。交通事故の損害賠償金と言うと、『慰謝料』だけをイメージする方もいらっしゃるかもしれませんが、慰謝料以外にも様々な項目について、加害者に請求できます。
主な損害の項目を確認していきましょう。
治療費
交通事故の被害者が入院したり、治療を受けたことでかかった医療費のことです。
一般的には、加害者の保険会社が既に病院に治療費を支払い済みであることが多いので、基本的に示談金の中に含まれることはありません。
通院交通費
被害者が病院に通院する際にかかった費用のことです。電車やバスなどの公共交通機関を利用した場合はその費用が掛かりますし、自家用車を運転した場合のガソリン代も含まれます。
休業損害
被害者が入院したり、ケガのために自宅療養が必要になったために、仕事を休まなければならなかった場合は、休業したことにより収入が減った分について補償を受けられます。
入通院慰謝料(傷害慰謝料)
一般的にイメージされる慰謝料のことです。交通事故によって、入院や通院を余儀なくされたことによる精神的な苦痛や肉体的な苦痛について、補償を求めることができます。
物損に対する補償(対物)
交通事故により、被害者の物が壊された場合に補償を求めることができます。車両の修理代金や代車費用などです。
後遺障害が残った場合に請求できる項目
被害者の方に後遺障害が残った場合は上記に加えて次のような項目についても請求できます。
亡くなった場合に請求できる項目
被害者の方が交通事故により亡くなった死亡事故の場合は、被害者の相続人が被害者本人に代わって、損害賠償請求を行います。
次のような項目を請求できます。
示談金の金額
交通事故の示談金の具体的な額を計算する際は、下記の3つの基準のどれかを用います。
自賠責基準は、自動車損害賠償保障法によって最低限補償すべきとされている金額です。自賠責保険による最低限の補償なので、被害者が受け取れる賠償金の額は最も少なくなります。
任意保険基準とは、任意保険会社が独自に定めている基準です。自賠責基準と同等か、わずかに上乗せされる程度に過ぎないのが一般的です。
弁護士基準(裁判基準)は、弁護士や裁判所が過去の判例などを基に損害賠償額を算定する際に用いる基準です。3つのうち最も高額になるのが一般的です。
任意保険会社は、示談交渉を行う際に任意保険基準で計算した示談金の金額を示します。
そして、その示談金額は、自賠責基準と同等か、わずかに上乗せされる程度にとどまることが多いです。
示談金額に納得できないならば、弁護士に依頼して示談交渉してもらいましょう。
弁護士なら、弁護士基準(裁判基準)で計算した示談金額を相手方の任意保険会社に請求することができます。
過失割合
過失割合とは、交通事故の態様における加害者と被害者の過失の程度を決めるものです。
交通事故は、加害者のみに過失があるケースもありますが、被害者にも一定の過失が認定されるケースも少なくありません。
例えば、加害者と被害者の過失の割合が、90対10という形で示された場合は、被害者が受け取れる示談金の額が10%減額されてしまうということです。
加害者と被害者の過失の割合が、60対40という数字になると、40%も減額されてしまうことになります。
過失割合は、交通事故現場に来た警察官や警察、保険会社が決めるわけではなく、示談交渉の中で決めるものです。
そのため、保険会社から示された過失割合に納得できないならば、弁護士に相談して下さい。
交通事故の態様を精査することにより、保険会社が示す過失割合を変えさせることも可能です。
その他の示談条件
保険会社との間の示談交渉で特に注意すべき項目は、示談金の範囲、示談金の金額、過失割合の3点ですが、その他にも留意すべき条件があります。
主な示談条件を紹介しておきます。
示談金の支払い方法や期日
示談相手が保険会社であれば、指定された期日に、指定された銀行口座に一括で支払われるので問題ないことがほとんどですが、念のため、いつ支払われるのか確認しておきましょう。
示談相手が加害者本人の場合は、示談金の支払い方法や期日についてしっかり決めておくことが大切です。
違約条項
示談相手が示談金を支払わなかった場合に、違約金を請求できるように違約条項を盛り込んでおきます。
示談相手が加害者本人の場合は、示談金を支払わない可能性もあるため、必ず盛り込むべき項目です。
示談相手が保険会社でも、盛り込んでおいた方が安全です。
留保条項
示談交渉を行う時点では、ケガの症状が大したことがないと思っていても、あとで深刻な症状が発覚したり、後遺症が出てしまうケースもあります。
このような場合でも、示談が既に終わっている場合は、改めて、相手方に損害賠償請求ができなくなる恐れがあります。
そこで、示談を成立させた後で、思いがけず新たな損害が発覚した場合に備える条項を盛り込んでおくことが大切です。
清算条項
今回の示談交渉によって、加害者と被害者、双方の損害賠償問題が一切解決されたことを確認する条項です。
一般的には、加害者が示談が成立した後に新たに被害者から損害賠償を求められないようにするための条項です。
ただ、被害者としても、示談が成立した後で、加害者から何らかの請求を受けることを防止する意味もあります。
被害者が加害者の保険会社と示談交渉をする際の注意点
交通事故の被害者となった方が加害者の保険会社と示談交渉をする際に注意したいことをまとめておきます。
加害者の保険会社は被害者の味方ではない
任意保険会社は営利企業ですから、保険金を支払う場合は、できる限り金額を少なくしようと試みるのが一般的です。加害者の保険会社が示談金を被害者に支払う場合も同じです。
加害者の保険会社の担当者は、被害者に親身に接して、まるで、被害者の味方であるかのようにふるまうことがあります。
被害者に寄り添い、要望を聞いたうえで、「会社に掛け合ってみましょう」などと言うものの、ふたを開けてみれば、「粘ってみましたが、やっぱり駄目でした」と低額の示談金額を示してくることも少なくありません。
担当者が被害者の味方だと錯覚してしまうと、「私のために頑張ってくれたんだし、これ以上要求するのは悪いか」などと考えてしまい、少ない示談金額で納得してしまうかもしれません。
しかし、加害者の保険会社は決して被害者の味方ではないことに注意しましょう。
弁護士に頼んでも意味がないという言葉を鵜呑みにしない
加害者の保険会社の担当者が様々なデータや資料を示したうえで、「あなたのケースではこの金額が限度です。弁護士に相談してもこの金額より増えることはありませんよ」と説明することもあるでしょう。
保険会社の担当者は、様々な交通事故のケースを見ていますから、その言葉に説得力があると思うかもしれません。
しかし、その言葉の裏には、弁護士に相談されてしまうと厄介だという本音が隠されていることも少なくありません。
任意保険会社が示す示談金額は、任意保険基準なので、弁護士が請求する場合の弁護士基準(裁判基準)よりも低額であるのが一般的です。
また、過失割合は、第三者が客観的な立場から判定しているわけではなく、あくまでも、加害者の保険会社が自分たちの意見として主張しているものに過ぎません。そのため、被害者の過失割合が意図的に大きくなっていることもあります。
被害者が交通事故に強い弁護士に相談してしまうと、こうしたことが明るみになってしまい、厄介なことになるので、弁護士に相談しても意味がないと牽制していることもあるのです。
納得できない、金額がおかしいと感じたら弁護士に相談する
加害者の保険会社の担当者の説明や対応に納得できなかったり、示された示談金額に納得できないならば、交通事故問題に強い弁護士に相談することが大切です。
被害者が自分の保険会社の示談交渉サービスを使えない場合、相手方の保険会社は、自社に有利な方向で示談をまとめようとしがちです。
担当者が親身でも、その人の話だけを鵜呑みにするのではなく、あなたの利益のみを考えてサポートしてくれる弁護士に相談してください。
保険会社による示談交渉サービスが使えない場合でも、弁護士費用特約を付加していれば、弁護士に相談したり依頼するための費用は保険会社に肩代わりしてもらうことができます。
この場合、示談交渉の結果、増額した示談金額をそのまま受け取ることも可能です。
弁護士費用特約を付加している場合は、こういう時こそ活用してください。
まとめ
交通事故の示談交渉の相手が保険会社となる場合の注意点について解説しました。
保険会社による示談交渉サービスが使えないケースでは、自分自身で示談交渉をまとめなければなりませんが、保険会社の担当者は示談交渉のプロですから相手方に有利な条件で示談交渉がまとめられてしまうことがあります。
こうした事態を避けるためには、弁護士に相談したり、代わりに示談交渉を行ってもらうことが大切です。
保険会社の示談交渉で不安や不満を感じている方は早めに弁護士にご相談ください。