コラム
もらい事故では自動車保険の保険会社は示談交渉できない? 理由や対処法を解説
2025.09.25 示談もらい事故の場合は被害者側の保険会社は示談交渉してくれません。自動車保険の示談代行が使えないので被害者は、自分で相手と交渉しなければなりません。示談の際の注意点や弁護士費用特約を使うべき理由などについて解説します。
もらい事故では自動車保険会社は示談交渉できない? 弁護士に依頼すべき理由も解説
自動車事故のうち、もらい事故などでは、被害者側が加入する保険会社は示談交渉を行えません。被害者の方は自分で相手方の保険会社との示談交渉を行わなければなりません。
もらい事故で保険会社が示談交渉を行えない理由や、示談代行サービスを利用できない場合の対処方法、自分で示談交渉する際のポイントについて解説します。
保険会社が提供する示談交渉サービスとは?
保険会社が提供する示談交渉サービスとは、自動車保険の会社が交通事故の当事者に代わって示談交渉を行ってくれるサービスです。
交通事故の示談交渉では次のようなことを話し合います。
- ・交通事故の過失割合
- ・交通事故による損害賠償金の項目と金額
- ・示談金の支払い方法と時期
そのうち、交通事故による損害賠償金の項目は、次のとおりです。
治療費等
診察にかかった費用、入院費、リハビリ費用、入院雑費、付添看護費、器具・装具費用、通院交通費、介護費用など。
慰謝料
入院や通院した時の入通院慰謝料、後遺障害が認定された時の後遺障害慰謝料、被害者が亡くなった時の死亡慰謝料の3種類。
休業損害
交通事故によるケガが原因で仕事を休んだことにより収入が減った場合の補償。
逸失利益
交通事故に遭わなければ得られたいたはずの収入の補償。後遺障害が認定された時の後遺障害逸失利益と被害者が亡くなった時の死亡逸失利益の2種類がある。
物損損害
車や自転車その他被害者の物が壊されたことについての補償。
こうした項目の話し合いを交通事故に詳しくない一般の方が、交通事故に遭ってしまい、精神的ショックを受けたり、ケガをして入院している状況の中で行うことは難しいものです。
そこで、任意保険に加入している場合は、保険会社が代わりにこうした交渉を行ってくれるのが一般的です。
示談交渉は法律事務?
実は示談交渉は、法律事務の一つとされていて、弁護士法72条により、弁護士又は弁護士法人でない者が報酬を得る目的で行うことは認められていません。
もしも、この規制に違反した場合は、非弁行為として、2年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金という処罰の対象になります。
では、保険会社はなぜ、示談交渉をサービスとして提供できるのでしょうか?
その理由は、保険会社も交通事故の当事者と同様の立場になるからです。
弁護士法72条では、示談交渉のような法律事務でも、
- ・当事者が自分で行うこと。
- ・無報酬で行うこと。
は認めています。
交通事故の場合、任意保険会社は、示談がまとまれば、示談金を支払わなければならない立場にあります。
被害者側でも交通事故の発生について、過失や責任がある場合は、示談金を支払う立場と言えるため、被害者側の任意保険会社も示談交渉を行えます。
つまり、交通事故では、保険会社は当事者として示談交渉に関わることができるというわけです。
保険会社が示談交渉を行えないケースとは?
保険会社は交通事故の当事者の立場にならないと示談交渉を行えません。
保険会社が示談交渉を行えない代表的な例は、もらい事故のケースです。
もらい事故とは、被害者側に全く過失がない態様の交通事故のことです。
具体例は次のとおりです。
- ・赤信号で信号待ちしていたところ、後ろから来た車に追突された。
- ・車線を適正速度で走行していたところ、対向車がセンターラインをオーバーして正面衝突してきた。
- ・青信号で交差点に進入したところ、信号無視の車に追突された。
- ・信号が青になったので歩行者が横断歩道を渡ったところ、信号無視の車にはねられた。
こうした交通事故は、一般的に、被害者側には過失がなく、被害者側の任意保険会社は、相手方に保険金を支払う必要はない立場になります。
被害者側の保険会社は交通事故の当事者になりませんので、当事者として示談交渉に関わることができません。
保険会社が示談交渉を行えない場合はどうすべきか?
もらい事故の被害者となった等、保険会社が示談交渉を行えない場合は、次の3つの方法により、加害者側と示談交渉を行わざるをえません。
- ・自分で示談交渉を行う
- ・保険会社が提供する「もらい事故の相談サービス」を利用する
- ・弁護士に相談したり、弁護士に代わりに示談交渉してもらう
一つ一つ確認しましょう。
自分で示談交渉を行う
自分が加入している保険会社が示談交渉を行えないときは、被害者の方が自分で加害者や加害者側の保険会社と示談交渉するしかありません。
保険会社が提供する「もらい事故の相談サービス」を利用する
保険会社によっては、「もらい事故の相談サービス」等のサービスを提供していることがあります。
しかし、保険会社のこうしたサポートは、有料で提供できるものではないため、あくまでも、簡単なアドバイスやサポートに留まるのが一般的です。
法律的なアドバイスを受けたり、代理での交渉を頼むことはできないので注意しましょう。
実質的には、自分自身で示談交渉を行うのと変わりがないことがほとんどです。
弁護士に相談したり、弁護士に示談交渉してもらう
もらい事故における示談交渉について、法律的なアドバイスを受けたかったり、代理での交渉を依頼したい場合に、現実的な選択肢となるのが、交通事故に詳しい弁護士へ相談することや弁護士に代わりに示談交渉してもらうことです。
弁護士への相談や代理での交渉を依頼する場合は、弁護士費用が掛かります。
ただ、自分の保険契約に弁護士特約(弁護士費用特約)を付けていれば、弁護士費用を保険会社に出してもらうことができるため、弁護士費用を気にせずに相談することが可能です。
もらい事故は自分で示談交渉を行うべきなのか?
もらい事故なら、完全に加害者側の過失なので、当然、示談金も全額もらえるし、自分で示談交渉を行っても問題ないだろうと考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、被害者の方が自分で加害者や加害者側の保険会社と示談交渉を行うことは大きな負担になりますしリスクもあります。
自分で示談交渉を行う際の負担やリスクを解説します。
示談交渉で不利になる可能性がある
交通事故の示談交渉において、保険会社の担当者は有利な立場にあります。
交通事故についての様々な知見を有している上に、示談交渉の経験も豊富で、交通事故が専門ではない弁護士よりも詳しいのが一般的です。
そんな人を相手に示談交渉に挑むことになるわけですから、被害者は不利な立場に立たされてしまうわけです。
また、保険会社はできる限り、保険金の支払額を低く抑えようとしますから、交通事故の程度や被害者の怪我や被害の程度を軽微なものにしたがります。
まだ治療の途中なのに、治療費の支払いを打ち切ったり、「弁護士に相談してもこれ以上の示談金の増額は無理ですよ」と牽制することもあります。
現実問題として自分自身で示談交渉できる状況にない
もらい事故により入院した場合でも、示談交渉は原則として、自分で行わなければなりません。
しかし、入院していて身体的にも精神的にもきつい状態にあるときに、加害者や加害者側の保険会社と示談交渉を行うのは難しいことも少なくありません。
交通事故の示談交渉は、会社の商談をまとめるのと同じくらいの労力がかかるものです。
そんな交渉を身体的にも精神的にもきつい状態で行うのでは、まともな話し合いは難しいでしょう。
結果として、相手方の保険会社の言うことを鵜呑みにする形で示談交渉をまとめてしまいがちです。
後遺障害等級の認定で低くなるリスクがある
もらい事故によるケガの程度がひどく、後遺障害が残ってしまった場合は、後遺障害等級の認定を受ける必要があります。
その手続きは、加害者側の保険会社事前認定として代行してもらうことも可能です。
ただ、加害者側の任意保険会社は、後遺障害等級認定の結果、被害者が重い等級で認定されてしまうと、自社が支払わなければならない後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益などが増額してしまうという立場にあります。
当然、被害者が適正な後遺障害等級認定を受けられるように、被害者にとって有利な資料をそろえるといったモチベーションを有しているわけではありません。
本来、受けられるはずの後遺障害等級よりも低く認定されてしまうリスクがあるわけです。
こうした事態を避けるためには、被害者自身が後遺障害等級認定の申請を行う方法があります。これを被害者請求と言います。
ただ、身体的にも精神的にもきつい状態の中では、ご自身で被害者請求するのは大変な負担になります。
もらい事故の場合は弁護士に相談したり依頼すべきなのか?
もらい事故は自分で相手方の保険会社と示談交渉するしかないのが原則です。
しかし、様々な事情により、自分自身で示談交渉するのが難しい場合は、弁護士へ相談したり、依頼するしかありません。
また、弁護士に相談したり依頼することには様々なメリットがあります。
慰謝料の額が増額される
交通事故の示談金の項目の一つである慰謝料には、次の3つの算定基準があります。
- ・自賠責基準
- ・任意保険基準
- ・裁判所基準(弁護士基準)
自賠責基準は、自動車損害賠償保障法によって、最低限の慰謝料の金額として保障されている自賠責保険の基準のことです。3つの基準の中で最も少ない金額になります。
任意保険基準は、任意保険会社が独自に定めている基準で、自賠責基準よりもわずかに上乗せされる程度の金額に留まることが多いです。
裁判所基準(弁護士基準)は、交通事故事件の過去の裁判例を基に作られた基準のことで、3つの基準の中で最も高額になります。
被害者側の任意保険会社は、できる限り慰謝料の支払い額を低く抑えようとするため、任意保険基準で計算して出した金額を提示してくるのが一般的です。
自賠責基準よりは多いですが、弁護士から請求した場合に比べると少ない額に留まることが多いです。
弁護士に相談し、示談交渉を代理で行ってもらえば、多くの場合、被害者側の任意保険会社が提示する慰謝料額よりも増額が見込めます。
もちろん、弁護士費用を自腹で負担する場合は、弁護士費用を差し引いて増額した金額かどれだけ残るか計算が必要です。
一方、弁護士特約(弁護士費用特約)を利用していれば、増額された慰謝料を全額受け取ることができます。
治療や療養に専念できる
交通事故でケガを負った場合は、入院したり、医師の治療をしっかり受けることが大切です。
その合間には、負担のかかることやストレスのたまることはやるべきではありません。
弁護士に相談したり依頼していれば、加害者側との示談交渉をすべて、一任することができるので、治療や療養に専念することができます。
結果として、治癒も早まり、ストレスから解放されやすくなります。
後遺障害等級認定で有利な資料をそろえてもらえる
既に紹介したとおり、後遺障害等級認定の申請は、加害者側の保険会社が事前認定により代行することも可能です。
ただ、事前認定だと、被害者にとって有利な資料をそろえてもらえないことがあります。
その点、弁護士へ相談、依頼していれば、後遺障害等級認定の申請も被害者請求で行うことにより、被害者にとって有利な資料を用意することが可能になります。
後遺障害の程度を適正に認定してもらいやすいですし、現実の後遺障害に見合った後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益を受け取れます。
もらい事故で保険会社が示談交渉を行えない場合のポイント
もらい事故で自分が加入している保険会社に示談交渉を行ってもらえない場合の対応のポイントは次のとおりです。
相手方の保険会社の提示する条件に安易に同意しない
被害者側の保険会社が示談交渉を行えないケースでは、加害者側が加入する保険会社は示談金の額や条件を低く提示してくることがあります。
そのため、「満額支払います」と言われたとしても、その言葉を鵜呑みにするのではなく、本当に適正な額なのかよく考えることが大切です。
そのためには、示談交渉を行う前に、示談金額の相場などについての情報を入手しておくようにしましょう。
自分で判断するのが難しい場合は弁護士に相談する
交通事故の被害者になることはそう多くあることではありません。
そのため、ケガをしてから慌てて情報を検索しても付け焼刃の情報や知識しか手に入らず、身体的にも精神的にもきつい状態で加害者側の保険会社と示談交渉することになるわけです。
相手から提示された示談金や条件が有利なのか不利なのかの判断は難しいでしょう。
このような場合は、ためらわず、もらい事故などの交通事故に詳しい弁護士にご相談ください。
自分の保険に弁護士特約(弁護士費用特約)を付けている場合はこのような時こそ、積極的に利用してください。
まとめ
もらい事故などでは、被害者側が加入する保険会社は示談交渉を行えません。
そのため、被害者の方は自分で加害者側の保険会社と示談交渉せざるを得ません。
しかし、交通事故の示談交渉に慣れていないと、低額な示談金や不利な条件で話をまとめてしまい、後悔することも少なくありません。
保険会社が提供する示談交渉サービスが使えない場合は、もらい事故などの交通事故に詳しい弁護士に相談してください。

